精神科医・心療内科で禅宗の僧侶でもある川野泰周氏による、安眠のためのレクチャーを7回に分けてお届けします。川野先生は現在診療を担当している睡眠クリニックにて、不眠に悩む患者さんの治療にマインドフルネスを取り入れています。マインドフルネス以外にも睡眠の改善に役立つ知識を教えていただきます。
Vol.4の記事では、寝る前のリラックス法を紹介していただきました。今回は、寝る前にしてはいけないこと、また、眠りにつけない時にマインドフルネスの練習、特にボディスキャンを行うのがなぜよいのかを解説していただきます。
寝る前の激しい運動は避ける
さて、ここからお話しするのは、寝る前にしないほうがよいことについてです。まず、寝る前にすべきでないのは激しい運動です。時間がないからといって、寝る直前に思いっきり腹筋をしたり腕立てしたり体幹トレーニングをしたりする人がおられますが、それよりはリストラティブヨガのようなリラクセーション要素の大きなヨガなどがおすすめです。「リストラティブ」とは、「回復させる」といった意味合いの言葉で、体に負荷のかかりにくい、お年寄りやご病気で癌の治療中の方、妊婦さんでもできるように調整されたヨガです。少なくとも、寝る直前に激しい運動をすることはなるべく避けてください。
あとはご夫婦とかで寝る前しか話をできないということで、真剣な話をすることもあると思いますが、楽しい話でも悲しい話でも、あまり感情を刺激する類の話題が避けた方が賢明かもしれません。できれば、朝早めに起きて心をリセットした状態でこうした話し合いをした方が、睡眠の質に対しても心の健康に対しても良いのではないでしょうか。
また「眠ろう、眠ろう」と頑張ってしまうのも良くありません。寝ることを頑張るってことは、そこに意思が発生していることになります。眠りというのは、本来自然なものですから、強い意思に基づいて眠るということ自体、生理的な眠りではなくなってしまうわけです。眠気を感じた時にすっと布団に入れればベストという通説は確かにその通りと言えます。
眠れない時は、その時間を利用してマインドフルネスの練習を
では、布団に入って眠れなかったら何をするかというと、大抵の方はスマホを見てしまいます。これが良くないんです。では、布団に入って眠れない状態ですごすのが本当に良くないのかというと、横になってリラックスした姿勢で体自体は休息しているわけですから、私はそこまで悪い過ごし方とは考えていません。本当に眠くならないと布団に入ってはいけないのだとしたら、朝まで布団に入らないということになってしまいます。であれば、眠ることを目的とするのではなく、体を休めてあげるために横になって楽な姿勢で過ごす。そして、その時間を活用して、マインドフルネスの練習をすることで、さらに脳も休めてあげるというのも一つの考え方ではないでしょうか。
とくにこうしたゆっくり横になれる時間に取り組んでいただきたいのが、体の各部分の感覚を丁寧に観察していく、ボディスキャン瞑想というマインドフルネスです。音声ガイドを聞きながらおこなうと、取り組みやすいと思います。睡眠には至らないまでも睡眠に近い回復効果を得られるとも言われる瞑想ですから、どうせ眠れないならと考えを切り替えて、布団の上でやってみてはいかがでしょうか。
ボディスキャンをしながら眠ってしまっても構わない
もちろん、ボディスキャンをしながら寝てしまっても構わないのですが、寝なければいけないのではなくて、瞑想としてやっていただくことが最も大切です。ボディスキャンをしっかりやる時間だと思って横になっていただきたいのです。私たち人間の心はどうしてもあまのじゃくなところがあって、寝なければきゃいけないと思うと寝れない、寝てはいけないと思うと寝てしまうという性質があるからです。
眠りに関してだけではありません。私たちの脳の構造上、忘れたいこと、思い出したくもないことばかりが、何度も想起される。これは言ってみれば、私たち人間が獲得した危機回避能力の一つなんです。怖いものを記憶しておかないと次に危険が迫った時に逃げることができません。そうやって私たちは、遠い祖先たちが生きていた石器時代から生き延びて、文明を築いたわけです。寝ようと寝ようとすると眠れないのもこうした脳の機能が起こさせている現象の一つです。
そこで寝ることに集中するのではなく、ボディスキャンなどの瞑想に集中するようにすると、寝なければならないというこだわりを手放すことができるので、意外にもよく眠れたりするんです。だからこそでも、寝ようとするために瞑想をしないことが大切です。あくまでボディスキャン瞑想というものをトレーニングしているのだから、ガイド音声を最後まで聞けたら、それはいいことなんだと思っていただきたいのです。寝付くために瞑想をするという目的ができてしまうと、逆に眠れなくなってしまい、「せかっくボディスキャンをやったのに寝れないなんて」というネガティブな感情を生み出してしまいます。そうではなく、むしろ「私はボディスキャンを最後まで聞いて練習できたんだ」と考えていただければ、それは自己肯定感の向上につながっていきます。
そもそもボディスキャンは、寝るために開発された瞑想ではないんです。マインドフルネスを高める瞑想として海外では、最初の数週間、毎日に必ず45分間ほどのボディスキャンをすることが推奨されています。でも、日本人の皆さんには45分間、仰向けで目を閉じて行うボディスキャンをやっていただくと、ほとんどの方が途中で寝てしまって、海外式の長いボディスキャンはできないとおっしゃるんです。そこで、それを逆手にとって利用すれば良いというのが、快眠のためのボディスキャンということになります」
川野泰周
精神科医 / 臨済宗建長寺派林香寺住職
Text : 松田敦子
「最高の眠りのための講義」はRussellMEアプリ内で、音声でもお聞きになることができます。SLEEPカテゴリーの「安眠のためのレクチャー」というプログラム名です。なお、音声プログラムは一部内容が省略されています。ぜひ、ダウンロードして聴いてみてください。
ウェルネス・パーティ
AWAKEME
AWAKEME(アウェイクミー)は、ヨガ、瞑想、音楽&ダンスを楽しむウェルネス・パーティです。コンセプトは「ヨガ・瞑想・音楽&ダンスで心と身体を整え解放しよう」。
自分の内側に意識を向け、自分自身をあるがままに受け入れて、凝り固まった思い込みや想念に気づき、目覚め=AWAKEの旅に。
新たな自分を発見して、みんなで愛に溢れた世界を作っていきましょう。
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