自分を一番大事してもいい。人間関係がグンとうまくいく! セルフコンパッションとは?

アメリカの大手書店やAmazon.comをチェックすると、タイトルに“セルフ・コンパッション”という言葉が入った新刊を必ず目にします。私が暮らしたカリフォルニア州のヒューマン・ポテンシャル運動(1960年代、主に心理学の分野で生まれた、幸福、自己実現を目指すムーブメント)のメッカ、エサレン研究所でも、セルフコンパッションがテーマの瞑想合宿が大人気。おなじみのセルフケアとして、ITビジネス関係者や実業家、医療・教育分野に従事する人たちからセレブまで、アメリカ社会を牽引する人たちに浸透していました。

自分に思いやりを持ち、ありのままの自分を受け入れて、優しくすること

セルフ・コンパッションとは、自分に思いやりを持つこと。ありのままの自分を受け入れて、優しくあることです。これほどたくさんの人がセルフ・コンパッションを実践するという背景は、多くの人が自分に厳しすぎて、息苦しさを感じていることの現れでしょう。自己否定が強くなると自分の価値が認められず、特に人間関係のストレスが高まって、幸せや生きがいが感じられなくなります。

でもなぜそこまで自分を追い込み、頑張ってしまうのでしょう? ダライ・ラマ14世は、私たちの生きる目的は、幸せになることだと言っています。では、もっともっとと努力するのは、ダメな自分のままでは幸せになれないから? ありのままだと十分ではなく、誰にも認められないだろうし? でも、苦しくて幸せが感じられないなら、その誰かと自分への頑張りは本末転倒かもしれません。

確かに目指すものがあって、成長しようとする姿は美しいものです。モチベーションが、本心からの喜びや愛なら。自然な命の働きに従って頑張っているなら、苦労はあってもそのプロセスは生き生きと満ち足りたものであるはずです。ではそうではなく、どうにも不安でしんどい気持ちのほうが優っているなら? 心理学者カール・ロジャーズは「不安は今の自分を受け入れられないことで始まる」と言います。つまりそのしんどさ、生きづらさは「今の自分にまずOK出そうよ」という心の悲鳴。自分に思いやりをかけて、安心したいというホンネに気づこうというサインです。それはセルフ・コンパッションを自分に贈るタイミング。

さて、心理学研究ではコンパッションには、2つの要素があるとされています。それは、苦しみを共感して理解すること。次に、その苦しみを軽減するために何かしたいという意欲を持つことです。そんなコンパッションを自分に傾けるセルフ・コンパッション研究のパイオニア、クリスティン・ネフ教授によると、セルフ・コンパッションには、以下の3つが必要となります。

1. マインドフルネス(Mindfulness)

「辛い」「苦しい」と感じている自分に気づくこと。「強くないとダメ」と自分の弱い部分を否定したり、「こんなこと何でもない」と辛い気持ちをフタしたり、感じていないフリをしないこと。苦しんでいると感じないことには、心はホンネを語ってくれません。「これはイヤだ!」と心底思うことで、その逆、自分への優しさ、思いやりを選ぶことが可能になるのです。

2. 自分への優しさ(Self-kindness)

そこで、自分を厳しく批判したり、良い悪いと判断したりせず、大切な友達に接するように優しい気持ちで理解しましょう。怒り、痛み、苦しみなどのネガティブな気持ちを感じている、あるがままの自分に「OK」を出します。あなたはあなただけの価値がある人です。世界中にダメ出しされたとしても、最終的に自分で自分のことを否定しない限り、現実はそうではありません。

3. 全ての人の共通点=誰も完璧では無いことを理解する(Common Humanity)

苦しかったり、悲しかったりして、一人ぼっちだと孤独になるのではなく、そこから他の人とのつながりを見出すこともできます。ホッとしたり、幸せでワクワクしたいのは、みんな同じ。どんなに完璧で、幸せそうに見える人でも、孤独を感じたり、失敗したり、くじけそうになることがある。弱点もあるし、完璧な人生はありません。木よりも森を見るような心で、周りの人と深い次元で繋がること。

セルフコンパッション を高める慈悲の瞑想

Loving Kindness Meditation(慈悲の瞑想)のエクササイズでは、この3つが10分程度で練習できます。まず体をスキャンするようにその感覚に意識を向け、今の想いや考えを観察していきます。ここで(1)のマインドフルネス力が培われます。ホンネを知るには、望まないことを感じる心が必要になります。そこで「苦しい」「イヤだ」と感じる自分を良い悪いと決めつけず、ありのまま認めましょう。ホンネはその逆だとハッキリさせられます。

そして(2)の、私たちはありのままで愛される存在だということ。無条件の愛と優しさを自分に贈っていきます。心を温かく包みこんでくれるようなナレーションに導かれながら、(3)の辛い感覚や無視されたり、認められなかったりという悲しい気持ちは、自分だけでなくすべての人に共通だと腑に落とします。そのうえで自分への思いやりを広げて、大切な人、見知らぬ誰か、心の準備ができれば、困難な関係の人に贈るように誘導されていきます。苦手な人に思いやりが傾けられない場合は、そんな自分を許し、もっともっと自分に優しさを贈って。このエクササイズの後には、緊張していた心がじんわりとほぐされ、少し拡大していくように感じられるかもしれません。

かくいう私ですが、実はこのセルフ・コンパッションの瞑想を始めた当初は、抵抗感がありました。どちらかというと自分にムチ打って頑張ったり、人一倍苦労したりするほうが良いと思ってきたマッチョなタイプなので、「自分をハグする」といった自己啓発もくすぐったい。成長を放棄するようで「現実逃避では?」と苦手でした。けれども心理学の投影という考えを知って、その思い込みを外すことが出来ました。

投影によると、目の前の人や出来事はすベて心の鏡、ある時点の自分についての感じかたを映したもの。例えば空腹でランチに行こうとしていたときに追加業務をふられたら少しムッとするけど、美味しい昼ごはんの後はやる気がみなぎったりしますよね。このように同じ自分でもお腹が空いているときとそうではないときは、感じ方、目にするもの、行動が変わります。そこで、自分に優しく、その心を満たしておくと、少し余裕を持って周囲を捉えられるようになり、指摘もパーソナルに取らずに済むなど、相手の立場を理解し気配りできるようになります。つまりセルフ・コンパッションは、自分を甘やかす行為ではなく、むしろ自己管理。人間関係をスムーズにするための最高の戦略のひとつです。

自分のニーズを満たしてクリーンな状態でいると、仕事でも恋愛や家族関係でも、なぜ自分がその関係性にいるのか、そこから何を求めているのか、どれだけ自分の見方を譲歩して相手に歩み寄れるのかという限度、ホンネが見えるようになります。すると、関係性がこじれたときでも最適なコミュニケーションが図れるようになります。例えばわかってもらいたいと、思わず「あなたはいつも私のことを批判するよね」と相手を責めるような形で気持ちをぶつけてしまうとき。日頃からセルフ・コンパッションのエクササイズで、自分の気持ちを優しく受け止めていると、「私はあなたに批判されているように感じて悲しいの」と、自分の思いを具体的に相手がイメージしやすい形で、お互いの理解を深めようと伝えられるようになっていきます。このように自分の気持ちや言動を省みて、配慮することで、多くの言い争いは終結していきます。

さらに自分で自分の欲求を満たすにつれ、相手がありのまま振舞う自由も認められるようになっていきます。それが許容範囲を超えるようなら、「イヤだな」という自分のホンネを認めて、その関係性から少し距離を置いたり、離れることも自分に赦せるようになります。このように満たされて軽やかになるにつれ、相手を変えようとしていないのに向こうの態度が変わるなど、人間関係で驚くべきことが起こります。

サンフランシスコに有名な禅センターを設立した鈴木俊隆老師は、その著書『禅マインド、ビギナーズマインド』でこう語ります。「人をコントロールするいちばんよい方法は、存分にふざけてもいいんだよと言ってやることだ。そう言われた人は、広い意味でコントロールされた状態になる。羊や牛をコントロールするには広々とした牧場に放してやればいいが、それと同じことだ」。セルフ・コンパッションを実践するうちに、自分の好みや正解を相手に押し付けることなく、ラクな関係性が築けるようになるのです。

そこでは、まず自分を大事にすることが重要な一歩になります。セルフ・コンパッションで優しさを送った先に広がるのは、この世界で一番大切な自分との愛ある関係性。そこではもうほかの誰かになる必要がなくグンと生きやすく、周りの人にも心から思いやりを持って接することができるようになります。そんなあなたらしい人生を叶えるLoving Kindness Meditation(慈悲の瞑想)で、今日からセルフ・コンパッションの練習を始めてみませんか。

修行や共同生活で行き詰まったとき、太極拳を日課にするアメリカ人レジデントと一緒に裏山に行って、「視点を変えよう」とよく逆立ちした。

*メインビジュアルの写真は、オークランドにある彩さんのお気に入りのコーヒーショップで飾られていた生花の曼荼羅。

Text by 土居彩
株式会社マガジンハウスに14年間勤務し、anan編集部などに所属。退職後に渡米し、カリフォルニア大学バークレー校心理学部ダチャー・ケトナー博士研究室で2年間学ぶ。その後ホームフリー生活を送り、ウパヤ禅センターレジデント、エサレン研究所ワークスカラー、タサハラ禅センターボランティアなどを経験。帰国した現在は執筆・翻訳活動のかたわら、大学などで瞑想・ジャーナリングを指導。www.makiwarilife.tokyo

ラッセル・マインドフルネス・エンターテインメントでは、ヨガ、瞑想、音楽&ダンスで心と身体を整えて解放するモーニング・ウェルネス・パーティ「AWAKEME」と、幸せな毎日を過ごすための学びのオンラインコミュニティ「AWAKEME “THE WORKSHOP”」を開催しています。

Instagram:https://www.instagram.com/awakeme_mindfulness/

ウェルネス・パーティ

AWAKEME

AWAKEME(アウェイクミー)は、ヨガ、瞑想、音楽&ダンスを楽しむウェルネス・パーティです。コンセプトは「ヨガ・瞑想・音楽&ダンスで心と身体を整え解放しよう」。

自分の内側に意識を向け、自分自身をあるがままに受け入れて、凝り固まった思い込みや想念に気づき、目覚め=AWAKEの旅に。

新たな自分を発見して、みんなで愛に溢れた世界を作っていきましょう。

私たちは自己肯定感を高めることを目的としたウェルビーイングコミュニティを形成していきます。