マインドフルネスとともに、近年、話題になっている「セルフコンパッション」。セルフコンパッションの研究で知られるテキサス大学のクリスティンネフ博士に曰く、「セルフコンパッションとは、困難に直面した時に、自分自身の肯定的、否定的、両方の側面を優しく理解して受け入れ、その苦しみが人類共通であることを認識し、感情のバランスが取れる特性」で、実践を続けると、レジリエンスが高まることが研究でも証明され、ビジネスシーンでも注目されています。
そのクリスティンネフ博士が別の博士と一緒に構築したプログラム、マインドフル・セルフコンパッション(MSC)の認定講師でもある、松本真紀子さんにセルフコンパッションとその効果を教えていただきました。
セルフコンパッションとは意図的に、より積極的に自分をいたわること
――まず、セルフコンパッションについて教えてください。
「セルフコンパッションには3つの要素があります。まずは自分に優しくすること。そして、マインドフルネス、共通の人間性です。マインドフルネスが凄く大事で、マインドフルネスなしにはセルフコンパッションは成り立たないです。
マインドフルネスをやっているとセルフコンパッションを育むメディテーションなども出てきますが、セルフコンパッションは意図的により積極的に自分をいたわるという感じです」
――マインドフルネスはなぜ、セルフコンパッションを実践していく上で重要になってくるのでしょうか?
「マインドフルネスの定義は、”価値判断なく、ありのまま物事を観察する”ことです。良い悪い等の価値判断なく物事を見るって日常でなかなかないかと思います。そればかりか、価値判断しているということにも気づいていないかと。
例えば、夜眠れない時、次の日も仕事があるのにしんどくて、それは自分では受け入れられない状態ですよね。どうにかして眠りたいっていう執着とか渇望が生まれますよね。でも、頑張って努力して寝るってことはできないと思います。逆方向に行くと余計不眠症になってしまうんですよね。体もかたくなりますし、また、眠れないこということに、意識が集中してしまいます。
そういうときは、「今自分は眠りに落ちにくいんだな」ということを気づいて、それを受け入れるのがマインドフルネスなのですが、眠れないと不安になってどうにかしなくてはと頑張ってしまうのです。そこで、眠れないことを受け入れて、この苦しみから解放されますようにと言葉でケアするのがセルフコンパッションなのです」
――なかなか自分自身をそのようにケアできなる方はいませんよね?
「そうですね。そして、セルフコンパッションを実践していくと、バックドラフトという三つの反応が現れます。まずは、自分を大事にしても、良くも悪くも何も起きない。次に、こんなに自分をいたわる方法があったんだと心地よくなることと。3つめは苦しくなるという人もいます。この3つの中のどれかを多かれ少なかれみなさん経験します。
「バックドラフト」というタイトルの映画が昔あったのをご存知ですか? 火事のときにドアを開けると、急に酸素が入って燃え上がってしまう現象のことです。それと同じようなことが感情にも起きるんです。自分を大事にするという私たちが必要なことをしているのですが、それがあまりに今まで馴染みのなかったことなので、強い感情として出てきて苦しくなってしまうんですね。
継続していくと、個人によってそういうことも起きるということを、セルフコンパッションの初期の講義で学びます。そうしたら、それが起きた時もああこれはバックドラフトだなって認識できるので。自分は自分を大事にするのに値しないとか、自分にはあってないとか思ってやめてしまう可能性もあるのですが、それも私たちがセルフコンパッションを学ぶ上で非常に必要なプロセスで、起こりうるプロセスなのです」
隣人を愛するように自分を愛する
――ハーバード・ビジネスレビューで特集されたり、いま、セルフコンパッションが注目されている理由は何だと思いますか?
「実は私たちは、自分を大事にすることを学んでないですよね。「聖書では自分を愛するように隣人を愛しましょう」とは言っていますが。そして、最近は他の人に迷惑をかけないようにしましょうとか…。「隣人を愛するように自分を愛しましょう」の方が理にかなっているのではないか、とセルフコンパッションの第一人者のクリス・ガーマー氏も言っていました。
現代社会のあり方でその辺は逆になってきているのではないかと思います。自分を大事にすることが、あまり重要視されない時代背景があるかなと思います。私たちはまず自分を大事にできないと、本当の意味で他者にコンパッションを向けることもなかなか難しいですよね。なので、双方にとっていい状態にするには自分の中に余裕やいたわり、思いやりの心を育んでいくのが大事なんじゃないかと思います」
――セルフコンパッションは練習すれば高められると言われていますが、慈悲の瞑想以外のエクササイズは他にどんなものがあるのでしょうか?
「いくつかあるのですが、一番シンプルなものは、自分にタッチすることです。「スージングタッチ」と英語で言います。触れる体の部位は胸の上がスタンダードですが、個人個人によってどこが心地よいか変わってくるかと思うので、別の場所でもよいです。これが自分自身にいたわりを運ぶサインのような感じです。
私たちは信頼している好きな人に体を触れられると安心しますよね。例えば、お母さんと子供とか。あれはオキシトシンというホルモンが出ているからなんです。オキシトシンは自分で触れても出て来るのです。自分に触れることで体感として自分をいたわるということをリマインドしてくれるものでもあるし、マインドフルネス・セルフコンパッション(MSC)でも象徴的なものです。慈悲の瞑想の時にも触れてみましょうと言って触れることもあります。
あとはマインドフルネスと同じように、呼吸の感じるエクササイズもあって、セルフコンパッションの場合は呼吸の優しい流れを感じます。呼吸の流れが体の内側をなでるようなイメージです。そして、意図を向けて呼吸の内側で起きる感覚を感じます。そして、外側は胸に置いた手の平の感覚を感じます。このエクササイズは「優しい呼吸の瞑想」といいます。トイレに行った時や自分のデスクでも、いつでもどこでもできるのがよいところです」
自分の失敗を素直に認めて、適切な対応ができるようになる
――リーダーシップにも役立つと言われていますが、ビジネスシーンではどう役立つと思いますか?
「ノリコさん(カリフォルニア大学サンディエゴ校、Center for Mindfulnessマネージング・ディレクター)とも話をしていたのですが、マインドフルネスをちゃんと理解されてないと、なかなかセルフコンパッションを役立てることができないんですよね。セルフコンパッションだけをちょっとやるというのは難しく、マインドフルネスとセルフコンパッションを一緒にやってうまくいかないといけません。なので、マインドフル・セルフコンパッションという名前なのです。失敗をしたり、間違いを犯した時に、それを素直に認められる安全な場所があるという感じです。
ついつい日々のコンペティションの中で、それらに対して言い訳をしたり、隠蔽したりしてしまうことがあるかと思いますが、セルフコンパッションはしっかりと自分の痛みにそのまま寄り添うという練習をします。そこにいたわりを運んで、失敗したり間違いを犯すことはコモンニューマニティ(共通の人間性)といって、誰しも経験するということを理解した上で、失敗してしまったという苦しみにそのまま寄り添う。そうすると失敗を素直に認めて、そこから、これからどうして行くのかという適切な対応ができる。ビジネスシーンだけでなく、人生全般に有効だと思います」
――継続していくと一番変わることは何でしょうか?
「自分自身との関係性が良くなると当時に、対人関係も良くなります。あと、セルフコンパッションを継続している人は定期的に運動をしたりとか、食生活に気を使ったり等、自分のケアを意識的にしていて、心身ともに健康になっていくという研究結果があります。
私自身もセルフコンパッションを始めて、最初はぎこちなかったのですが、最近は自然に自分の胸に手を置いたりします。不安を感じているときは、不安を感じているなと気がついて、スージングタッチをしています。自分の一部になっていたわって、他者に対しても自然にそれをできるようになっています。
いたわり、思いやりという気持ちをベースに、人と優しい繋がりを持てるようになります。自分をいたわることは、他者をいたわることに直結しているということができるかと思います」
松本真紀子
米国ハコミ研究所 認定セラピスト / マインドフルネス教育コース講師 (MBSR, MSC)
Text : 松田敦子
ラッセル・マインドフルネス・エンターテインメントでは、ヨガ、瞑想、音楽&ダンスで心と身体を整えて解放するモーニング・ウェルネス・パーティ「AWAKEME」と、幸せな毎日を過ごすための学びのオンラインコミュニティ「AWAKEME “THE WORKSHOP”」を開催しています。
ウェルネス・パーティ
AWAKEME
AWAKEME(アウェイクミー)は、ヨガ、瞑想、音楽&ダンスを楽しむウェルネス・パーティです。コンセプトは「ヨガ・瞑想・音楽&ダンスで心と身体を整え解放しよう」。
自分の内側に意識を向け、自分自身をあるがままに受け入れて、凝り固まった思い込みや想念に気づき、目覚め=AWAKEの旅に。
新たな自分を発見して、みんなで愛に溢れた世界を作っていきましょう。
私たちは自己肯定感を高めることを目的としたウェルビーイングコミュニティを形成していきます。
