不眠症に効果あり! 睡眠前に行うマインドフルネスで心をリセット

日本人の約4割に睡眠障害の疑いがあると言われるほど、不眠大国の日本。医師が処方する睡眠改善薬や睡眠導入剤で不眠症を治療する方法もありますが、マインドフルネスを介した不眠症状の解消法が注目されています。不眠はそもそもどうして起こるのか、質のいい睡眠をとるためには具体的になにをすればいいのか、臨済宗建長寺派林香寺の住職で、精神科医としてRESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック副院長も務める川野泰周(かわの・たいしゅう)さんに話をうかがいました

不眠に陥る最大の原因はスマホだった?

不眠にはいくつかタイプがあります。寝つきが悪い、寝てもすぐ起きてしまう、朝早く起きてしまう主に3つが挙げられますが、最近特に問題になり、潜在的に非常に多いと考えられているのが、睡眠リズム障害です。睡眠相後退症候群(DSPS)と呼ばれるもので、睡眠リズム自体が後ろにずれてしまうのです。その原因の一つは、都市が明るすぎることにあります。完全な闇がなく、網膜から光の刺激が途切れることなく入ってくるので、睡眠ホルモンであるメラトニンが脳から出にくくなり、分泌が減ると睡眠が自動的に後退してしまう。至近距離で明るい光源を浴び続けるスマートフォンの影響も大きいです。寝る直前までデスクワークをしたり、ベッドの中でYouTubeを見たりして、膨大な情報が脳に入り込むと、脳は必死にそれを処理しようとしますが、眠るためには脳の活動を鎮めなければなりません。そのために、患者さんにはボディスキャンやマインドフルネス瞑想を勧めています。実際、これまで睡眠薬に頼っていた多くの患者さんが、マインドフルネスを治療に取り入れることで徐々に服用量を減らすことができたり、内服をしなくても眠れるようになったりと、健康的な生活習慣を送れるようになってきました。

マインドフルネスで心をリセットする

不眠を解消するには、寝る直前の心の状態をリセットできるかが重要になるため、これまで処理してきた情報から一旦切り離して、今自分が感じているものだけに注意力を集約していきます。呼吸瞑想なら呼吸に、ボディスキャンなら体感に注意を向けたあと、今度は徐々に視野を広げていく。仏教瞑想でいうところの、サマタ瞑想からヴィパッサナー瞑想への切り替えです。ブッダは6年の修行で呼吸などに集中するサマタ瞑想をはじめとした様々な修行を実践しましたが、最終的には菩提樹の下にひとり座って、あるがままに自分がここにいること受容しようとヴィパッサナー瞑想を始め、8日後に悟りを開きました。

坐禅をしている時間だけが禅ではなく、日常底(にちじょうてい)と呼ばれる日常生活もすべて禅です。日頃の生活では、いろいろな人と折り合いをつけ、さまざまな仕事をするために、注意を張り巡らさなければならないことが多いですよね。ひとつのものに集中する、そして、次第に注意を外に広げていく。その両方を修練するのが、本来の禅のスタイルです。医学的にマインドフルネスを研究されている方たちの中には、禅はサマタ瞑想であり、ヴィパッサナー瞑想とは全くの別物とおっしゃる方もいますが、実は禅の修行生活のそこかしこにヴィパッサナー瞑想の要素が散りばめられているんです。

未来や過去ではなく、今に意識を向ける

外に向かってフル活動していた注意を、自分の内面で感じている特定の感覚に向けると、注意資源の過剰な消費が抑えられます。脳のデフォルト・モード・ネットワーク(まだ起きてもいない未来のことを心配したり、もう起きてしまって変えられない過去を何度も反芻したりする時に働く脳機能)の過活動が、脳の疲労につながると考えられていますが、マインドフルネスはそれを抑制することができるんです。

寝る前に自己啓発本のような自分の悩みに関係している本を読むと、寝た後にその内容が想起されて、悪夢として現れ、それが浅い睡眠につながる可能性があります。浅眠状態が続くと睡眠リズムが崩壊し、心身の疲労がとれにくくなることが推定されます。

マインドフルネスの効果は脳波に現れる

瞑想中は、穏やかな気持ちのときに出るアルファ波(10Hz前後)より遅い、徐波(じょは)が見られやすくなります。具体的には7 Hz以下のシータ波、3 Hz以下のデルタ波も観測されています。昏睡に近い状態の脳波が、瞑想していると出ることもあるんです。つまり、極端な言い方をすれば脳が機能不全を起こしているかのような状態を人為的に作り出せるのが瞑想と言えなくもありません。だからといって、脳がなにも感じなくなっているわけではありません。さまざまなものを感受するものの、それを脳の中で必死に処理はせず、受け入れる、あるいは受け流す。それがマインドフルネスであり、心が穏やかな状態です。

マインドフルネスを実感する

マインドフルネスを続けることによって変わるのは、心の在りようです。脳の活動がゆっくりになってきたことは自覚できませんが、誰かに怒りを向けられたり、嫌味を言われたりしたとき、昔なら目くじらを立てていたところを、「そんな風に言いたくなるときもあるよなー」と、穏やかに受け流せるようになります。相手の在りようは変わりませんが、自分が相手の言動に動じなければ苦しみが減り、自分の主体的な幸せは維持されます。相手に反応しないことに意義があるんですね。これがマインドフルネスの効果を実感できる一つの兆候です。

認知行動療法(CBT)では、セラピストとクライアントが一対一で対話を続けながら、こうしてみてはどうですか、こういうふうに考えることはできませんか、とある意味理詰めで考え方を変えていくのに対し、イギリス式のマインドフルネス認知療法(MBCT)では、自分の認知のパターンは気づきの対象になりますが、それを能動的に変えようとするわけではなく、自分の認知の歪みに気づき、それを一旦はあるがままに受容して、穏やかな状態に整えていきます。偏りがあるとしても、それを積極的に変えようとするのではなく、そんな偏りのある自分でも大切にしてあげよう、そんな自分がいてもいいよと、瞑想によって落とし込んでいく。そのような受容的な態度が心に定着してゆくことで、ひいてはそもそも問題だったはずの認知の歪みが自然と修正されてゆく、そんなイメージです。

不眠の悩みを解消するボディスキャン
アプリで気軽に始められる

どんなマインドフルネス瞑想を行っても心の状態は変わっていきますし、いずれも不眠の悩みに効果的ですが、眠るための対処法は、やはり寝る前にやりたいですよね。寝る直前にできることで一番お勧めなのは、ボディスキャンです。非常にリラクゼーション要素が高いですし、さまざまなアプリが出ており、スマホを頭の近くに置いて気軽に始められます。アメリカで開発されたマインドフルネスストレス低減法(MBSR)では毎日45分行うのが効果的とされていますが、今の非常に多忙な日本人の生活にこれを取り入れるのは難しいかもしれません。

ボディスキャンの途中で寝てしまうという方もいらっしゃいますが、寝落ちするまでの数分間はできているわけですし、寝落ちした翌朝は目覚めがとてもいいとおっしゃる方が多いんです。本を読んだりスマホで動画を見たりしながら寝落ちした人に比べれば、脳の活動が明らかにリセットされています。いろいろな方に試してもらいたいので、私も作曲家の方にリラクゼーション音楽をつけていただいた音源を作り、患者さんや企業研修でお配りしています。足、ひざ、おなか、胸、肩、顔、頭と、ボディスキャンする箇所を減らした、15分くらいでできるプログラムです。ただ気を付けていただきたいのは、ボディスキャンは元々眠るために開発されたリラクゼーション法ではなく、あくまで心と体を深い気づきと受容の状態に導くためのれっきとした瞑想法ですから、「寝るためにやるんだ」と強く意識しながら取り組むことはお勧めできません。瞑想法として集中して取り組んだ結果として、途中で自然な眠りに入ることもあれば、最後までボディスキャンをやり切れることもあるでしょう。いずれであっても、「今日の瞑想はこんな感じだな」と、あるがままの瞑想体験を受け入れてあげるようにしましょう。

朝日を浴び、呼吸筋を鍛えるのも効果的

夜しっかり眠るには、朝日を浴びることや運動習慣も大切です。胸が開き肺の容積を広げる呼吸筋、特に肋間筋のストレッチをするといいと思います。呼吸生理学が専門の昭和大学名誉教授の本間生夫先生がいろいろ紹介されていますが、東日本大震災時、被災地の子供たちに呼吸筋を鍛える体操を教えたところ、メンタルヘルスも向上していったそうです。心配事があると交感神経が優位になり、不安が呼吸を浅くさせますが、その逆もあり、呼吸を意図的にゆっくりすることによって、心も穏やかになっていくんです。これは、マインドフルネスというよりはリラクゼーションの分野になりますが、どういう呼吸をするかによって心と対話しようとする原点において、こうしたリラクゼーションと、自然のあるがままの呼吸を観察するマインドフルネスとは、多くを共有しているように思います。

マインドフルネス=あるがままを受け入れる

ただ、この“あるがまま”が難しいですよね。「あるがままになろうとすると、あるがままになれない」ということを、初めから知っておかなければなりません。ある状態を目指すと逆に離れてしまう。だからこそ、目指してはいけないんです。

四六時中呼吸に意識を向けることはできないですし、普段向けていない対象に意識を向けるのがマインドフルネスなので、やりにくくて当然だと思います。“新しい物の観察の仕方を学ぶ”というふうにご理解いただくと、「自分にはできないからやめる」という方が減っていきますし、できなくても自分を責めず、やりづらくて当たり前の手法を学ぶのがおもしろいと思ってもらうのがコツです。そうして続けていけば、不眠の悩みはゆっくりと着実に、解消されてゆくのではないでしょうか。

川野泰周(かわの たいしゅう)
精神科医 / 臨済宗建長寺派林香寺住職

Text : 権田アスカ

早朝イベント

AWAKEME

来場者に旅する気分でヨガ、瞑想、ダンスを体験していただきます。

コンテンツを担当するのは、第一線で活躍するヨガ、瞑想講師、DJ&ダンサーの方々。

イベントのテーマは毎月変わり、アフリカ、ブラジル、ハワイなどをテーマに開催。

イベントを通して新たな自分を発見し、ポジティブな1日をスタートするお手伝いをいたします。

「AWAKEME」は自己肯定感を高めることを目的としたウェルビーイングコミュニティを形成していきます。