営業成績や人からの評価が気になる。理不尽な上司の言動に日振り回されているものの、なにも言えない。自信がもてず、できそうなことも謙遜してビジネスチャンスを逃してしまう。マインドフルネスを練習することで自己肯定感を高められるのはわかってきたけど、いざ瞑想をやっても続かない。そんな日本のビジネスパーソンに多い悩みを、川野先生にご相談しました。
Q 上司との人間関係に悩んでいます。理不尽なことを言われ、まわりの同僚に比べると自分にだけ当たりが強い気がします。苦しいですし、上司に対して不信感がぬぐえませんが、マインドフルネスでこのような状況を打破できるでしょうか。
A 自分を主体的に認めてあげることで打破できます。自分の存在価値に対する判断基準を他者の目線におき、相手からどう思われているかが自分の存在価値のすべてになると、生きていて苦しくなります。褒められるとやる気が出る一方、注意されると思い悩んでしまうことはありませんか? それは、相手から褒められることで自分の価値が上げているからなんです。本当にマインドフルな人は、人に褒められても有頂天になりません。自分を主体的に見ているからです。「自分には不完全なところがあるけれど、人間ってそういうものだから」と、共通の人間性を理解している。たとえば、呼吸瞑想をしていると、呼吸が速くなるときも遅くなるときもありますが、人の状態はさまざまですし、「今日はこういう状態なんだ、これでいいんだよ」と、自分に許しを与えて受容できる。ただ呼吸瞑想をやっているようでいて、自己肯定を高めているんですね。呼吸を手掛かりにしてこれを続けていくと、他者の目線に委ねることが少なくなっていきます。
また、誰かの役に立てることはうれしいけど、感謝されないと続けられないといったモチベーションの作り方もしなくなります。ただ自分が貢献できることがうれしいんであって、相手がありがたみを感じているかや、自分がやったことのすごさを相手が認知しているかはどうでもよくなります。それが、自己肯定感をもっている人であり、セルフコンパッションがある方なんですね。両者は近いものだと思っています。
それに相対するのが、自尊心です。自尊心は人からの評価で決まってくると言われています。同期の人たちと比べて自分は社会的により成功しているか、年収が高いかと、社会の平均値が気になってしまう。日本人は特に平均点や標準偏差を出す教育に慣れているので、自分が社会のどこにいるかが、気になるのかもしれません。他者の判断基準に自分が揺らがなくなると、叱責されても、それを叱責ととらえないようになります。「これじゃダメだろう!」と上司に言われても、怒らたことにショックを受けるのではなく、自分はできていないんだという事実にフォーカスがあてられるようになるんです。そして、「この人は私に怒りを感じ、それをぶつけてきている。でも、そうなるにいたった経緯がいろいろあるのだろう。仕事を抱えすぎて心にゆとりがないのかもしれないし、家族が病気で困っているのかもしれない」と、自分に危害を加えようとしている人に対して、思いやりが浮かぶようになる。“自利利他円満”という言葉が仏教にありますが、これはまず自分のことを主体的に満たすべきであり、自分の存在を肯定できないと他者を助けるのは難しく、貢献できないという意味です。
マインドフルネスは気晴らしではありません。気晴らしは目の前にある現実から目をそらすことで、ストレスからの回避ともとれます。マインドフルネスは逆に、そのストレスをしっかり見つめて受容する。これには日頃の練習が必要で、その場でとっさにできることではありません。「今度上司に怒られたら、マインドフルネスをやってみます」ではダメなんです。上司に怒られた途端に呼吸瞑想を始めたら、ただの変な人ですよね。怒られたあと、自分に席に戻って呼吸瞑想をすればいいのかというと、そうでもない。嫌なことがあったからと呼吸瞑想をすれば逆効果で、呼吸瞑想=嫌な出来事になり、瞑想が嫌いになります。日頃から修練を積み、瞑想で心を整えると、上司に理不尽なことを言われても動じなくなる。その場でなんとかするには、アンガーマネージメントやコーピングのテクニックが有効かもしれません。
マインドフルネスをとおして環境適応力を高めていくのはいいんですが、世の中にパワハラやDVが存在するのも事実です。パワハラやDVの渦中にいると、客観的に、冷静に自分を見る目が失われ、そこから離れるという観点が持てなくなります。こういうものだという刷り込みが起きてしまうんです。マインドフルネスを続けることで、「自分はここにいなくても、人生もっと楽しいことがあるよね」と実感し、環境を変えるという選択肢をとることができるようになる。何をすることが最も自分らしいか、あるがままの自分の姿が見えてくるので、今の仕事が本当に自分に向いているのか、新しい人生選択をするきっかけにもなると思います。
●マインドフルネスは1日にしてならず。日々の練習が大切
●ストレスから目をそらさず、しっかり見つめよう
●瞑想で心を整えれば、人の評価に動じなくなる
●環境を変えるという別の選択肢も見えてくる
Q なにをやっても自信がもてず、劣等感に苛まれています。まわりの人と比べると自分はまだまだ努力が足りないと感じてしまいますが、どうすれば自分を認められるようになるでしょうか。
A 日本人の自己肯定感は先進国で最低というデータがあります。内閣が数年前に13歳〜29歳の青少年にアンケートをとったんですが、自分に満足していると答えた日本人は半数を切っていました。韓国でも7割以上、欧米は8割以上が満足していると答えたんですが、日本人は初めから自己肯定が苦手な国民なんですね。
「自分を主体的に認めてあげよう」と思うだけでは、自己肯定感は生まれません。これも、日頃からの練習が必要です。自分を認められるようになると、自然と思いやりのある行動ができるようになります。呼吸瞑想をやるだけで、本当にそんな状態になるのかと不思議に思うかもしれませんが、アメリカでの研究結果があるんです。席がすべて埋まっている待合室に松葉杖の人が入ってきた場合、一般的に15%の人が席を譲るそうですが、呼吸瞑想だけを毎日8週間練習してきた人たちに関しては、5割が席を譲ったんです。呼吸は自分の存在とリンクしている生命活動ですから、呼吸を受け入れることで自分の存在を受容するようになり、他人にも受容的になったと考えられています。
今あるもののありがたみに気づくのが、マインドフルネスの一番の目的です。たとえば、今こうして呼吸できているのは、肺や延髄が機能しているからです。そのありがたみがわかるのは、風邪で咳が止まらなくなったり、肺気腫など呼吸がうまくできない病気になったときです。呼吸が苦しいときは呼吸に意識が向きますし、失われつつあるものに対しては気持ちが行きますが、普段当たり前にしていることに対しては注意が払えない。だからこそ、それに主体的に注意を向け、埋もれていた感謝の気持ちを引き出すことができるのが、マインドフルネスなんです。感謝の気持ちが芽生えると人を攻撃することもなくなり、平和な世の中につながるはずです。呼吸瞑想に限らず、歩く瞑想でも、食べる瞑想でも、ヨガ瞑想でも構いません。自分にとってやりやすいものを、ぜひ取りいれてください。
●持ちたいと思うだけでは、自己肯定感は生まれない
●自分を認めると、人にも優しくなれる
●自分に合った瞑想方法を見つけよう
川野泰周(かわの たいしゅう)
精神科医 / 臨済宗建長寺派林香寺住職
Text : 権田アスカ
ウェルネス・パーティ
AWAKEME
AWAKEME(アウェイクミー)は、ヨガ、瞑想、音楽&ダンスを楽しむウェルネス・パーティです。コンセプトは「ヨガ・瞑想・音楽&ダンスで心と身体を整え解放しよう」。
自分の内側に意識を向け、自分自身をあるがままに受け入れて、凝り固まった思い込みや想念に気づき、目覚め=AWAKEの旅に。
新たな自分を発見して、みんなで愛に溢れた世界を作っていきましょう。
私たちは自己肯定感を高めることを目的としたウェルビーイングコミュニティを形成していきます。
