大ベストセラーともなった名著「嫌われる勇気」によって一躍注目された「アドラー心理学」。この記事では、その「アドラー心理学」より、「生きづらさ」から抜け出し人生を幸せに導く実践的なノウハウについてそのエッセンスをご紹介していきます。
アドラーによると、全ての悩みの原因は対人関係にあるとされています。例えば思考実験として、この地球上に、自分以外の人間が誰一人としていなくなったと仮定してみましょう。すると、それまで感じていた悩みのタネが全て消え去っていくことが実感できるのではないでしょうか。アドラー心理学では、人生の「生きづらさ」から解放されて、心を穏やかに幸せな気持ちで過ごせるための実践的なノウハウが散りばめられています。そして、その中でも特に、この対人関係に由来する「生きづらさ」を取り除くことこそが、人生を幸せに生きるために大きなプラスの影響を与えるとされています。それでは一体どうして人は、対人関係から「生きづらさ」につながるような悩みを導き出してしまうのでしょうか。
悩みを引き起こす対人関係の捉え方とは
アドラー心理学では、「生きづらさ」に繋がるような対人関係の捉え方として大きく分けて3つの姿勢が警告されています。
① 承認欲求をベースに対人関係を構築してしまう
承認欲求とは、他者から認めてもらいたいという欲求のことです。この承認欲求に支配されたままだと、人生の全てが他者に認めてもらうためだけに過ごすものとなってしまいます。私たち人間は、他者の期待を満たすために生きているわけではありません。他者の期待に応えることを最優先するような生き方は、「自分らしさ」や「幸せ」からは程遠い生き方になってしまいます。アドラー心理学では、そのように承認欲求を優先させているから、人生は不自由になってしまっているのであり、他人から好かれようとしない、言い換えるならば嫌われても別に良い、という勇気を持てるようになる大切さが教えられています。
② 競争意識をベースに対人関係を捉えてしまう
次に、あらゆる対人関係に競争意識を持ち込んでしまうことにも警告がされています。対人関係の軸に競争意識を持ち込んでしまうと、自ずと他人を敵と見なすようになってしまい、気付いた時には周りは敵だらけという状態になってしまいます。このような状態の中に居続けると、他人よりも上にいることが安心で、逆に他人よりも下にいることは恐怖となります。人間は年を重ねるうちに老いていく生き物ですし、世代が変われば勝ち負けの基準も変わります。人生を通じて勝ち続けるということは不可能で、競争意識を持ち続けたままだと、早かれ遅かれ敗北を味わい、劣等感に苛まれることになります。アドラー心理学では、こうした競争意識を人生の基準から取り除くことが教えられており、他人と自分を比較するのではなく、思い描く理想の自分と、今の自分とを比較して健全な向上心を培う大切さが教えられています。
③ 他者と自分との課題を混合してしまう
そして、あらゆる対人関係のトラブルは他者と自分との課題を混合させ、他人の課題に自分が踏み込むことや、逆に自分の課題に他人が踏み込むことを許すことによって起こるとされています。アドラー心理学では、他者が自分のことをどのように評価するかは他者次第であり、自分にはどうすることもできない。だから、そもそも他者が自分のことをどのように評価するかということ自体に無関心になるべきであると教えられています。また、逆も然りであり、自分のことをどのように決めるかは100%自分次第であり、自分の課題に他人の意見を介入させて、自分の意見を嫌々曲げるというようなことは一切しなくて良い、ということが教えられています。そしてここまで解説してき対人関係への姿勢、すなわち
- 承認欲求をベースに対人関係を構築してしまう
- 競争意識をベースに対人関係を捉えてしまう
- 他者と自分との課題を混合してしまう
という3つの考え方こそが、「人生の生きづらさ」に繋がるような悩みの元凶になっているとされています。それでは一体、どのように考え方を改めるようにと教えられているのでしょうか。
アドラー心理学に学ぶ正しい対人関係の3つの捉え方とは
① 承認欲求と競争意識は捨て、理想の自分との対話だけを残す
先ほど紹介したように、他者に認められたいという承認欲求や、他人と自分とを比較して優位に立とうとする競争意識からは「生きづらさ」しか生まれて来ません。本当の意味での幸せな人生を歩むことにはつながらないのです。アドラー心理学では、そのような承認欲求や競争意識は、もう人生を送る上での価値基準から取り除くことが教えられています。そして、そうした価値基準を取り除いた上で、思い描く理想の自分との一対一での対話を人生の中に取り込むことが推奨されています。そうすることで生まれるのは「健全な劣等感」で、その健全な劣等感を解消するために努力のエネルギーを注いでいくことは、「自分らしさ」を磨くこと、そして本当の意味での幸せな人生を歩んでいく導きとなると教えられています。
② 自分と他人の課題の分離を徹底する
そして、アドラー心理学では他者と自分との課題の分離を徹底して行うことが教えられています。あらゆる対人関係のトラブルの元凶は、他者と自分の課題の混合にあるとは既に述べた通りです。他人を変えることはできないから、他人の課題には介入しない。つまり、他人が自分をどう思うかというのは、100%他人次第であり、自分にはどうすることも出来ないのだから、そもそも気にすることすらしないで良いということです。この考え方こそが、「嫌われる勇気」という本の名前の由来でもあり、別に他人に嫌われても良いという勇気を持つことはすなわち、他人と自分との課題の境界線をはっきりと見極められている証拠なのです。だから、他人の目を気にする必要性も、他人の期待に応えようとする必要性もそもそもなく、大切なのは自分はどうしたいのか、自分の理想な一体なになのか、という自分の課題と真剣に向き合うことであると教えられています。
③ 仲間に対する貢献感を養う
人間は、仲間とみなしたコミュニティに対して無条件の貢献を行っていくことで、そのコミュニティの中で自分は意味ある存在であるという「貢献感」を養うことが出来ます。「嫌われる勇気」における幸福の定義は、まさにこの「貢献感」、すなわちコミュニティの中に自分の居場所があると感じられることにこそあります。承認欲求を突き詰めていった先にあるのは、他者の期待や評価のためだけに生きる条件付きで不自由な人生ですが、仲間に対する貢献を無条件かつ主体的に突き詰めていった先にあるのは、承認欲求にとらわれることのない、自分の価値の実感と幸福感であるとされています。もし、ここまで触れて来たような「承認欲求」や「競争意識」、そして「自分と他人の課題の混合」が維持されたままだと、幸福感に繋がるような「貢献感」をもたらしてくれる関わり合いを持つことは出来ません。だからこそ、「承認欲求」や「競争意識」は捨てる必要があり、また自分と他人の課題の境界線をはっきりとさせ、互いにその境界線を越えていかないようにする必要があるのです。アドラー心理学では、幸せな人生を送るためにも、そうした「生きづらさ」を生み出す対人関係に由来する要因は取り除き、自分は相手に対して一体何をしてやれるのだろうかという貢献感を養っていくことこそが、幸せに繋がる行動指針であると教えられています。
人生を幸せに過ごすために
この記事では、アドラー心理学で教えられている、人生を幸せに導く実践的なノウハウについて、そのエッセンスとなる部分を解説してきました。再度記事の内容を簡単にまとめて終わりにします。アドラー心理学では、あらゆる「生きづらさ」の元凶は対人関係に由来しており、特に以下の3つの要因が原因となっているとされています。
- 承認欲求をベースに対人関係を構築してしまう
- 競争意識をベースに対人関係を捉えてしまう
- 他者と自分との課題を混合してしまう
そして、そうした要因を取り除き、人生を真の意味で幸せに生きるために3つの方針が掲げられています。
- 承認欲求と競争意識は捨て、理想の自分との対話だけを残す
- 自分と他人の課題の分離を徹底する
- 仲間に対する貢献感を養う