アメリカのCBD事情

私が医療大麻の合法化活動を始めてかれこれ10年になりますが、その間アメリカで起きた変化には目を見張るものがあります。なにしろ今から10年前(*本コラムは2019年に執筆されました)、2009年の時点では、13州で医療大麻が合法だっただけで、嗜好大麻が合法な州などありませんでしたし、ヘンプの栽培も禁じられていました。それが2019年現在、医療大麻は33州とワシントンDCで合法となり(そのほかにCBDのみ使用が許されている州が14州)、ヘンプの栽培・加工・販売は47州で合法化されています。

とりわけ2013年以降、アメリカでは医療大麻合法化の大きな波が起こりました。そのきっかけとなったのがCBDです。現在アメリカの市場には、ティンクチャー(チンキ)やカプセル、高濃度のオイル、チョコレート、キャンディ、ソーダや水などの飲料まで含む「エディブル」と呼ばれる製品群から、クリーム、美容液、フェイスマスク、ソープ、シャンプー、マッサージオイルといったスキンケア製品群まで、膨大な種類のCBD製品が販売されています。市場規模で言うと、2018年のCBD製品売上高は全世界で13億4,000万ドル[1] (約1,450億円)、アメリカだけを取れば5億1,000万ドル[2] (約550億円)で、2022年までに230億ドル(2兆3,000億円)規模に拡大すると予想されています。あるいはもっとずっと大きな市場規模になると予想するところさえあります。

いったいどうしてこんなことが起きたのでしょうか。その経緯とアメリカからの最新情報をご紹介します。

CBDとは何か

CBDとは、「カンナビス・サティバ・L」と呼ばれる植物に含まれる植物性化合物「カンナビノイド」の一種です。カンナビノイドには少なくとも140種類以上ありますが、その中で最も多く含まれているのが、THC(テトラヒドロカンナビノール)とCBD(カンナビジオール)であり、研究も進んでいます。いわゆる大麻とヘンプは、植物学的にはともにカンナビス・サティバ・Lという同一の植物です。

カンナビス・サティバ・Lは、数千年前から人間とともにあった植物であり、その繊維で衣服やロープを作り、種子を食べ、また世界中で医療用に利用されてきたことがわかる文献が残っています。アメリカでは1937年、日本でも1947年に禁止されるまでは、薬局方にも載り、市販薬として販売されていました。

CBDの「再発見」

人間が品種に手を加えるようになる以前の野生の大麻草には、THCとCBDがほぼ同じくらいの割合で含まれていたと考えられています。けれども1960年代にTHCが単離され、人間をいわゆる「ハイ」な状態にする効果を持つのはTHCであることがわかると、品種の改良はもっぱらTHCの含有量を高めることに焦点が置かれました。その結果、世に流通している大麻はCBDがほとんど含まれていないものばかりになりました。

ところが約10年前、北カリフォルニアで、たまたま突然変異でCBDを比較的多く含む品種が見つかりました。一方、1990年代になって人間の体内に「エンドカンナビノイド・システム」があることがわかり、また大麻草に含まれるカンナビノイドの研究が進むにつれて、研究者の間では、CBDが持つ医療的な効能についての関心が高まっていました。それを受けて一部の活動家がCBDに関する啓蒙と普及を始めたのです。

CBDという名前が一気に有名になったのは、2013年、CNNで放送されたドキュメンタリー番組『WEED』がきっかけでした。CBDが豊富でTHCをほとんど含まない大麻草のティンクチャーが、ドラベ症候群という難治性てんかんで一日数百回の発作に苦しんでいたコロラド州の5歳の女の子シャーロットの発作をぴたりと止める様子が話題となり、我が子のために同様の治療を求める家族がコロラド州に移住するという社会現象を巻き起こしたのです。

「医療用ヘンプ」の誕生

その翌年の2014年、俗に「農業法」と呼ばれる法律の4年に一度の改変があり、その中で、大麻草のうち「乾燥重量(刈り取った大麻草の花穂を乾燥させた状態)でTHC含有量が0.3%未満のもの」が規制物質法の取り締まり対象にならない「産業用ヘンプ」と定義されたことが、今日の「ヘンプ由来CBDオイル」ブームに火をつけることになりました。

私がいわゆる「ヘンプ由来CBDオイル」を初めてオンラインで見かけたのも2014年のことだったと思います。CNNのドキュメンタリーによってCBDに関心が高まったのをビジネス機会と捉えた人々が、(当時はアメリカ国内でのヘンプ栽培は禁じられていたため)海外から原料を輸入してCBDオイルを製造し、オンラインで販売し始めたのです。これは各州の医療大麻制度とは無関係な動きであり、医療大麻制度による規制—たとえば、すべての製品は各バッチごとに検査ラボによる品質検査が必要であること—の対象に該当しないため、これらの製品にはクオリティコントロールの面で問題が多々ありました。ヨーロッパからの輸入であると偽って中国産の原料を使っていたり、CBDの含有量がラベル表示通りでなかったり、重金属が検出されるなどしたのです。

2014年の農業法改定では、ヘンプ栽培はあくまでも州政府あるいは大学の研究を目的としたパイロットプログラムとしてのみ許されていたので、アメリカ国内でのヘンプ栽培は地域も規模も限られていました。その後、2018年に再び農業法の改定により、ヘンプの栽培や加工が連邦政府レベルで合法化され、ヘンプ栽培農家はヘンプに農業保険をかけたり銀行との取引が可能になりました。何よりも、医療用大麻を栽培するのとは桁違いの規模での栽培が可能になり、ヘンプの栽培が各地で本格化しています。

興味深いのは、ヘンプ栽培の解禁と同時に再び栽培されるようになった「ヘンプ」は、繊維のためでも種子を採るためでもなく、CBDを抽出することを目的として栽培されるものが圧倒的に多いという点です。2013年以降、育種家たちはCBDを多く含む大麻草の品種開発に躍起になっており、THC 0.3%未満という条件を満たす品種が続々と開発されています。これらは法的にはヘンプと分類されるわけですが、THCの含有量が 0.3%未満である(THC 0% という品種もあります)という点以外、大麻草(カンナビス・サティバ・L)であることに変わりありません。私はこれらを「医療用ヘンプ」と呼んでいます。

玉石混合のCBD市場

アメリカ国内でヘンプの栽培が可能になり、原料を育てるところからきちんとした管理のもとに製造されるヘンプ由来のCBDオイルが増えた結果、現在のCBD市場にある製品は品質にばらつきがあり、玉石混合です。

たとえば製品のタイプ。前出の、難治性てんかんの女の子の発作を抑えて有名になった「シャーロッツ・ウェブ」も法的には「ヘンプ」の品種の一つですが、医療大麻となんら違わない方法で栽培・加工されます。ヘンプの全草を使い、包含される植物性成分をすべて抽出する「フルスペクトラム」と呼ばれる製品です。シャーロッツ・ウェブ以外にもさまざまな品種・ブランドがあります。

一方、抽出物を精製してほぼ100%の純粋なCBD(「アイソレート」とか「ディスティレート」と呼ばれます)を製造し、それをキャリアオイルで希釈したCBDオイルも多く出回っています。エディブルやスキンケア製品に使われるCBDもアイソレートが主流です。

フルスペクトラムの製品の特徴は、CBD以外の、植物にごく少量含まれる他のカンナビノイドや、テルペンと呼ばれる医療効果のある芳香成分も同時に含まれており、それらが相互に作用しあって生まれる「アントラージュ効果」によって高い医療効果が期待できること。一方アイソレートから作られた製品にはアントラージュ効果は期待できません。

残念ながら、日本では大麻取締法によってカナビス・サティバ・L(大麻草とヘンプ)の花穂や葉を用いることが禁じられているため、日本で入手できるCBDオイルはヘンプの茎から抽出されたものに限られ、仮にフルスペクトラムであるとしても、含有成分のプロファイルは花穂や葉から作ったものに比べて劣ると言われます。

ただし、カンナビノイドやテルペンに対する反応は個人差が大きく、どういう成分がどういう効果をもたらすかは人によって違います。CBDアイソレート単体で効果を感じる人・症状もあります。けれどもそれはあくまでも、医療大麻が持つもっと広くて大きな可能性の一部にすぎないことを忘れないでいただきたいと思います。

法律をうまく味方につけて、可能な範囲で健康に良い高品質な製品を届けたい、という良心的なメーカーもありますし、かと思えば、実際には効果が期待できない微量のCBDしか含んでいない製品に、CBD入りだというだけで高い値段がついているものも多々見られます。前述のように、第三者機関による検査でラベル表記の内容と実際の内容が一致していないというケースも後を絶ちません。きちんとしたメーカーはきちんとした検査を行なっていますし、求めれば検査の結果を見せてくれます。製品を選ぶ際には、信頼できるメーカーであること、きちんと検査を受けるなどして品質管理されていることを確認することが大切です。

CBDの効能 / ウェルビーイングのために

CBDの流行とともに、「THCは人を酩酊させる悪い麻薬、CBDは医療効果のある良いカンナビノイド」という主張を見かけることがありますが、これは誤解です。CBD、THCのどちらにもさまざまな医療効果があることがわかっているのです。ただしCBDにはTHCのように人を酩酊させる作用がないため、受け入れやすい人が多いということが、CBDブームに火がついた原因でしょう。

CBDはこれまでに、エンドカンナビノイド・システムを含めて65種類の作用標的(CBDが結合して作用する酵素あるいは受容体といった特定の組織)が特定されています。つまり、体内のさまざまな箇所に働きかけるために、効果がある症状も幅広いのです。中でも、鎮痛効果、抗けいれん作用、抗炎症作用、抗酸化作用、神経保護作用、抗がん作用があることがわかっています。

ヘンプ由来のCBDオイルは「サプリメント」なので、医療効果を謳うことができないのは、日本もアメリカも同じです。それでも、アメリカではCBD製品の勢いはすさまじく、最近の調査[3] では、アメリカ人の14%(7人に1人)がCBD製品を使っており、そのうち、40%が慢性疼痛の改善のため、20%が抗不安剤として、また11%が不眠症を改善するために使っていると答えています。世界ドーピング機構(WADA)による禁止薬物のリストからもCBDは削除されましたし、大手薬局チェーンの棚にも製品が並び、CBDオイルを摂った状態でヨガやメディテーションを行うクラスもあります。また「マイクロドージング」と言われる少量のカンナビノイドの日常的な摂取が、エンドカンナビノイド・システムの健康状態を向上させ、さまざまな疾患の予防に役立つのではないかという仮説もあります。

今やCBDはアメリカの消費者にとって、健康的な生活を送るための大切なツールの一つになりつつあると言えるでしょう。


Text by 三木直子

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