医療領域におけるマインドフルネスの変遷と科学的エビデンス

マインドフルネスに対する認知および関心は世界的に急速な高まりを見せている。最近では我が国においても、「健康経営」の一環として、生産性や社員のメンタルヘルス向上の目的でマインドフルネスを導入する企業が増えつつあるほか、一般の人を対象とした瞑想スタジオが複数オープンするなど、その活用領域は医療を越えて拡大し続けている。本稿では、初めにマインドフルネスの定義および医療領域におけるマインドフルネスの変遷について概説し、次にマインドフルネスを用いた介入の効果について、科学的なエビデンスを紹介した。

1.マインドフルネスについて

マインドフルネスとは、「今この瞬間の体験に気づき、ありのままにそれを受け入れる方法」[1]と定義されている。マインドフルネスを医療の領域に最初に導入したのは、マサチューセッツ大学のジョン・カバットジン(Jon Kabat-Zinn)である。彼は1970年代にマインドフルネスストレス低減法(Mindfulness Based Stress Reduction: MBSR)と呼ばれる8週間のプログラムを開発し、主に慢性疼痛の患者に適用していた。ただ医療領域においてマインドフルネスが日の目を見るまでには時間がかかった。状況が大きく変わったのは、J・D・ティーズデール(John Teasdale)、ジンデル・シーガル(Zindel Segal)、マーク・ウィリアムズ(Mark Williams)が認知行動療法とMBSRを融合させたマインドフルネス認知療法(Mindfulness Based Cognitive Therapy: MBCT)を開発してからである。2000年にティーズデールらは、MBCTがうつ病の再発予防に効果があることを無作為化比較試験(randomized control tiral: RCT)で実証した[2]。これによって、マインドフルネスの概念が医療の世界で広く知られるようになり、うつ病をはじめ、様々な疾患に対して介入研究が行われるようになった。現在イギリスにおいては、国立医療技術評価機構(National Institute for Health and Clinical Excellence: NICE)によって、うつ病の再発予防に効果的な治療法としてMBCTが推奨されている[3]。

2.エビデンスについて

マインドフルネスの効果についてどの程度検証がなされているのであろうか?ここでは、マインドフルネスを用いた介入全体を視野に入れてエビデンスを紹介する。

(1)慢性疼痛

カバットジンは、1970年代から80年代にかけて、慢性疼痛の患者などにMBSRを実施し、自覚的な疼痛が改善することを報告している[4]。

(2)がん

がん患者は、再発の不安などによって抑うつや不安症状を呈しやすい。フォーリーM(Foley)ら[5]は、乳がん、子宮がん、卵巣がん、リンパ腫、前立腺、大腸がん等、様々な領域のがん患者合計115名に対し、MBCTを実施する群と待機群との2群に割り付けるRCTを実施した。その結果、MBCT群では、待機群に比べ、抑うつ、不安、苦痛などが有意に大きく改善したことを明らかにしている。

また、レンガチャー(Lengacher)ら[6]は、乳がん患者84名を、6週間のMBSR実施群と通常治療群とに分けてRCT(無作為化比較試験)を実施した。その結果、MBSR群では、うつおよび不安症状が有意に改善していることが確認され、再発への恐怖も有意に低下することが明らかになっている。

(3)うつ病

うつ病の再発予防効果については、ティーズデールら[2]がうつ病の寛解患者145名をMBCT群と対照群とに分けてRCTを実施している。過去に3回以上のうつ病エピソードを認めた群に限ってみると、通常治療群では60週間における再発率が66%であったのに対して、MBCT群のそれは37%で、MBCTが有意に再発を抑制することが明らかになっている。その後、マー(Ma)ら[7]、クイケン(Kuyken)ら[8]、ボンドルフィ(Bondolfi)ら[9]による検証でも、概ね同様の効果が再現されている。

近年では急性期のうつ病に対する効果検証も行われている。ストラウス(Strauss)ら[10]は、MBCTがうつ病の急性期の症状を有意に改善することを報告している。

(3)不安障害

不安障害に対するエビデンスとしては、キム(Kim)ら[11]が、計46名のパニック障害もしくは全般性不安障害の患者をMBCT群と心理教育群の2群に割り付け、RCTを実施している。その結果、不安症状とうつ症状はいずれもMBCT群で有意に改善を認めていた。リー(Lee)ら[12]は、全般性不安障害もしくはパニック障害の患者46名を瞑想ベースドストレスマネジメントプログラム(介入群)と心理教育プログラム(対照群)の2群に分けるRCTを実施し、介入群で不安症状の有意な改善が認められたことを明らかにしている。

文:永岡麻貴
慶應義塾大学医学部精神神経科学教室 臨床心理士、公認心理師
研究テーマ:マインドフルネスの費用対効果研究


参照

[1] Jon Kabat-Zinn(1994):Wherever You Go, There You Are: Mindfulness Meditation in Everyday Life. Hachette Books.

[2] Teasdale JD, Segal ZV, Williams JM, Ridgeway VA, Soulsby JM, Lau MA (2000). Prevention of relapse/ recurrence in major depression by mindfulness-based cognitive therapy. J Consult Clin Psychol 68:615-623

[3] National Collaborating Centre for Mental Health Commissioned by NICE (2009). Depression: the treatment and management of depression in adults.

[4] Kabat-Zinn J, Lipworth L, Burney R (1985). The clinical use of mindfulness meditation for the self-regulation of chronic pain. J Behav Med 8:163-190

[5] Foley E, Baillie A, Huxter M, Price M, Sinclair E (2010). Mindfulness-based cognitive therapy for individuals whose lives have been affected by cancer: a randomized controlled trial. J Consult Clin Psychol 78:72-79

[6] Lengacher CA, Johnson-Mallard V, Post-White J, Moscoso MS, Jacobsen PB, Klein TW, Widen RH, Fitzgerald SG, Shelton MM, Barta M, Goodman M, Cox CE, Kip KE (2009). Randomized controlled trial of mindfulness-based stress reduction (MBSR) for survivors of breast cancer. Psychooncology 18:1261-1272

[7] Ma SH, Teasdale JD (2004). Mindfulness-based cognitive therapy for depression: replication and exploration of differential relapse prevention effects. J consult Clin Psychol 72:31-40

[8] Kuyken W, Byford S, Taylor RS, Watkins E, Holden E, White K, Barrett B, Byng R, Evans A, Mullan E, Teasdale JD (2008). Mindfulness-based cognitive therapy to prevent relapse in recurrent depression. J Consult Clin Psychol 76:966-978

[9] Bondolfi G, Jermann F, der Linden MV, Gex-Fabry M, Bizzini L, Rouget BW, Myers-Arrazola L, Gonzalez C, Segal Z, Aubry JM, Bertschy G (2010). Depression relapse prophylaxis with Mindfulness-Based Cognitive Therapy: replication and extension in the Swiss health care system. J Affect Disord 122:224-231 

[10] Strauss C, Cavanagh K, Oliver A, Pettman D (2014). Mindfulness-based intervention for people diagnosed with a current episode of an anxiety or depressive disorder: a meta-analysis of randomized controlled trials. PloS One 9(4):e96110

[11] Kim YW, Lee SH, Choi TK, Suh SY, Kim B, Kim CM, Cho SJ, Kim MJ, Yook K, Ryu M, Song SK, Yook KH (2009). Effectiveness of mindfulness-based cognitive therapy as an adjuvant to pharmacotherapy in patients with panic disorder or generalized anxiety disorder. Depress Anxiety 26:601-606

[12] Lee SH, Ahn SC, Lee YJ, Choi TK, Yook KH, Suh SY (2007). Effectiveness of a meditation-based stress management program as an adjunct to pharmacotherapy in patients with anxiety disorder. J Psychosom Res 62:189-195

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